森田療法について

治そうとせずに治す特殊な受け入れ療法です.


森田療法は通常の精神療法とは少し違う方法を取る療法です。そこが分かりにくい点なので、その基本概念を箇条書きにしてみます。詳しくは以後の入門森田療法、或いはその後の「分かりやすい森田療法」を読み進めて下さい。なるべく普通の言葉で優しく伝えるよう心掛けました。

 

(1)皆様が今悩んでいる中身、言わば症状は自分で作り出したものである。という考え方を取ります。もう少し詳しく解説すると「嫌がって取り除きたいと思うので何時も症状を観察します。このことでどこも体に異常はないのに症状を強くしてしまう。との考え方です。

 

(2)症状を直接治そうとする全ての精神療法は、必ず症状に焦点を当てるので「自分で作り出すメカニズム」を働かせるために治りにくいのです。従って、症状を受け入れて治そうとする少し違う方法を取ります。

 

(3)自分の今の状態を良い点も症状を含む悪い点も全て「あるがまま」に受け入れようとする方法ですので、過去の出来事や現在の境遇を問いません。原因を探し出して、これを是正する方法ではありません。

(4)このように症状も含む様々な自分をあるがままに受け入れる方法は、症状が有りながら日常生活や仕事を建設的に健常者と同じように送ることを心掛ける「実践」と呼ばれる方法を取ります。治療の場は日常生活にあります。

(5)医師のもとで外来森田療法を行う場合は指導者が居るので、指導してもらいながら行うことができます。また、仲間がいれば一緒に自分でもできる方法です。

 

(6)森田療法の中では、色々と難しい言葉が出てきますが、全てこの実践(治療)原理を表しています。森田療法自体が治療方法をクリアーに数式のように手順を解説できないので、それを説明しているのです。

 

(7)すべてに亘って60点主義です。人間は不完全な生き物なので、すべて完全の方がおかしいと考えます。完全を求めようとすると

森田療法で症状を作り出す原因となる「かくあるべし」になると説いています。

 

(8)この精神療法はこのようなからくりによって、作り出される「神経症(注)」と言われる症状にとても効果的です。難病やがんなどの患者に生きがい療法として適用が広がっています。単に生きづらさを感じている程度の人にも有効です。しかし、森田療法は万能ではありません。

(注)神経症:現在は症状の呼び方が色々と変わってきています。詳しくはこの後の入門森田療法、或いは心の病一覧表を参照下さい。

 (現在、工事中です)

 

 

入門森田療法-1

 

第1章 森田療法の概要

森田療法は大正から昭和にかけて活躍した精神科医の森田正馬(もりたまさたけ)によって開発された日本発の精神療法です。精神的な病は普通、薬で緩和しますが、心の考え方が影響している場合も結構多いものです。従って、心の病の場合は薬の他に考え方の是正のための療法を併用する場合が多いものです。それが精神療法と言われるものです。

 

 森田療法はこの中に一つですが、特色あるのは「治そうとしないで治す方法」なのです。世の中には独特の方法があるものです。このような方法によって、昔は「神経衰弱」と呼ばれ一時期「神経症」或いは全般的に「ノイローゼ」と呼ばれた現在の「社交不安障害や「不安症「強迫症」などのいわゆる、体の生理的な以上は起きていないのに体の不調を来す、様々な症状に効果がある精神療法です。「治そうとしないで治す」或いは「受け入れて治す」のが常識的では無いせいか、この精神療法を受けてみようとする人は少なく、メジャーな療法ではありませんが、上手く理解して実践できると効果は中々のものです。

 

 このような症状は「はからい」から「とらわれ」と呼ばれる状態になるとされる「からくり」に依って起こりと、森田療法では説明しています。この「はからい」とは、症状を持った場合にこれを、何とかなくしたい、こんなことが有ってはならない、これは病気だから治さなくては。などの思いを抱くことを称しています。

 

 そして、「はからう」ことに依って症状を強くし、四六時中この症状を何とかしなくてはと考えている状態になると「とらわれ」の言葉で表しています。この言葉の方が森田療法ではよく使われますが、もう少し説明すると「この症状をどうしても取り去って健常な状態に戻したい」或いは「私はこのような症状をもつ病気になってしまった」そして「病気だから何とか治さなくては」と常に考えている状態を言います。つまり病気になった嘆きと病気だから治さなくては。とのことに思考が固まっている状態を言います。

 

「 病気だから治さなくては」との思いが症状を作っている。この原理が森田療法の核にあるので、治そうとすると、このからくりが働いて、症状を強める力も働くので治りにくいのです。この原理は森田正馬自身の体験と、当時神経衰弱と呼ばれた患者を自宅に預かり作業に没頭させたところ、全治を見たことからこの「からくり」の仕組みとこれを解きほぐす「作業療法」としての森田療法が生まれました。

 

 作業療法の中身を論理的に思考すると、結局「症状を持ちながら、健常者のような生活をする」とも言えるし「症状は有っても建設的なことをするのが良い」とも言えます。或いは「症状を意識しないようにして他のことに熱中する」とも言えます。このことから、症状が有りながら目前の事に手を出す「恐怖突入」と呼ばれる作業療法による治療法が生まれたのです。

 

 この作業療法に依る治療法は症状を持った人の現在の全てをありのままに受け入れる方法であるため、過去の履歴や現在の境遇、環境を問題視しない方法であるのも特徴です。原因を追究してこれを是正する方法ではありません。今の全ての自分の状態を症状などを含めて「あるがまま」に受け入れる心的状態になることが、森田療法でいう「治癒」の状態だとしています。過去に色々な出来事が有ったとしても、全て受け入れることが必要なのです。

 

 難しいのは、誰でも症状があると「これを治そう」とします。これをそのままにして目前のことに手を出そう。症状を含めて自分を受け入れて行こう、とするこの方法はとても非常識的でもあるので、受け入れることは簡単では無いと思います。特に症状が強いと一層この傾向が強まります。症状が強いと不安感や嫌がる気持ちも強く、体にも不調感が出てきて周りから見ても「病気」のように見えるため一層「治さなくては」の思いが強まります。この点が森田療法の最も難しいところのように思えます。このように一般常識とは異なる点がなかなか理解してもらえない一因にもなっているのだと思います。

 

作業療法から生活療法へ

今まで、森田療法はこの作業療法が必要なための入院療法が主たる治療法の場でした。この作業療法をするための環境整備は医師側も用意するのが大変です。以前は多くあった、これらの入院施設が今は少なくなったのはこのことが原因とも言われています。また、これらの入院施設の大部分が、医療保険の対象外という事も有ったと思います。それで今は通院に依る外来森田療法に変わってきています。この方法は日常の生活の場を作業に見立てて医師がそれを見守る生活療法が主流となる治療方法になります。このような形に変わってきています。(良く分る森田療法「中村敬著」による)

 

 このように森田療法では一番肝心なことは、症状に焦点を当てないで「今の自分の生活が建設的にできているか?」に焦点を当てることです。症状に関する状態を不問にして日常生活が上手くできているかを考える方法ですので「不問技法」と呼ばれることもあります。(分かりやすい森田療法「中村敬著」より)

 

 こういった治療方法を取るのが森田療法です。一般の人には常識的では無いので、特に今、症状などでこれを何とかしようと悩んでいる人にはとても不満な療法に感じるかも知れません。そういった理由も有るせいか、これを受け入れる人は少ないですが、このような症状、特に今まで「神経症」とよばれた様々な症状に対してとても有効な精神療法です。

 

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